mirage of story

 
 
 
 
 
 





「失礼致しました」




扉の前まで来ると、一回振り返りもう一度頭を下げる。

丁寧に、そして深々と礼をする彼はロアルの忠実なる部下。
それ以外の何者でもなかった。










─────。
ガチャンッ。


ライルは扉に手を掛け、静かに閉める。
そのドアの閉まる音が、静かな城内に響いた。












(明日の日暮れか)



閉じた扉。
それを前に立ち尽くして考える。








(アトラス。交易の街。
本当に奴等は現れるのか?)




可能性は在れども確証は無い。

もしも彼女が現れなかったとして行方を見失えばまた目的を果たす日は遠退く。
大切な人の、ルシアスの仇を討つ時が遠ざかる。

それだけは、絶対に避けたい。

ようやく見つけ出したルシアスの仇。
それを討ち果たすその待ち望んだ機会を見す見す逃すことなどしたくはない。









(........まぁ、他に当ても無い。
行くしかないか)




不安はある。
だが、あのはっきりと言い切ったロアルの妙な自信がその不安を薄めていた。


確か、アトラスは交易の街と言っていた。
彼女が現れなくても情報が入るかもしれない。

命令であっても無くとも、行く価値は十分にあった。







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