哀しい瞳で見る彼女。
憎しみしか抱けないはずの敵であるはずなのに、俺は彼女を討つことが出来ずに立ち尽くす、
――――。
そして思い描かれる光景の最中で俺が何か言っている。
何を言っているのかは、それを発しているのは自分であるはずなのに曇って聞こえない。
(............この頭の中に浮かんでくる光景は何だ)
本来頭の中で描かれるべきは彼女を討ち果たし指輪を取り戻し、喜びに暮れる自分の姿であるはずなのに。
何故かそれが浮かんで来ない。
頭の中に流れる自分の意志と反する光景。
これはただの幻想か、はたまた未来の予知であるのか。
それも彼には判らない。
その光景がやけに鮮明で、胸の中に引っ掛かった。
「ライルよ。
これは亡き姫の無念を晴らすための、お前の望みを叶えるための絶好の機会ぞ。
必ず、必ずやものにするのだ」
低く震える声。
それにライルはハッと現実に返る。
「.........。
はい、必ずや奴等を―――人間達をこの手で討ち果たして見せます」
「よい眼をしている。
その眼は、奴らを倒せる眼だ。
ライルよ、期待しておるぞ?」
ライルの蒼い瞳に宿る光は、憎しみを纏った歪んだ希望でグラリと歪む。
――――。
その彼の瞳に、ロアルは満足したような笑みを浮かべた。
「........出発は明日の日暮れ。
それまでに、兵達を纏めよ」
「御意」
ッ。
一歩後ろに下がり、彼は自らの君主へと深く一礼した。
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