心臓の鼓動が、煩いくらいに速くなっている。
シエラはその鼓動を無理矢理押さえ込め、混乱する頭のまま石を拾い上げるとその石を男に渡した。
「あの....ありがとうございました!」
シエラはすばやくお礼を言う。
そして、まだ心に残る驚きの余韻を胸に男から逃げるように急ぎ足で遠ざかる。
今あの一瞬に何があったのかは全く把握出来てはいなかったが、とりあえずこの男から離れなければという考えが先行した。
後ろの方で男が何かを言っている気がいたが、シエラは聞こえていないふりをして構わず歩き続けた。
(―――何だかあの人、この指輪を見て凄く驚いていたわ。
......でも、どうして?)
シエラは、男の様子が少しおかしかった気がした。
確かにいきなり光出したら誰だって驚くかもしれない。だが、あの驚き方は尋常でなかった。
何か普通の驚きではなかった。
(それにあの人、何か私に言っていたけど)
咄嗟に逃げてきたはいいものの、歩き男から遠ざかるうちに最後に何か自分に向かって言っていたことが、どうしても気になってくる。
あの尋常でない驚き方といい、何か重要なことを言っていたのではないかと思えてきて、シエラは何メートルか遠ざかったところでおそるおそる後ろを振り返った。
「........あれ?」
振り返りぐるりと見回す。
しかし、そこにはもうすでに男の姿はなかった。
(.....居ない)
男はまるで消えるように居なくなってしまっていた。
振り返った視界に入るのは、森の深い緑色だけ。
魔族らしきあの男、一体何者だったのだろうか?
結局何も起こらず、何も分からなかった。
(まぁ......こっちが人間だってばれてないみたいだったし、いいわよね?)

