「あ....ありがとうございました!」
シエラは立ち去ろうとする男の背に、焦りながらもお礼を言う。
一応ここまで案内してくれたのだ。魔族であっても、お礼は言うべきだろう。
そんな声を背に、男は振り返りもせず静かに去って行く。
.....コロンッ。
その時、男が何かを落とした。
何かは分からないが、男はそれを落としたことに気付いていないようだ。
そのまま遠ざかっていく。
「あ....あのこれ落としましたよ?」
その言葉に男は振り返る。
そしてシエラはその何かを拾おうと体を屈めた。
男が落とした物。
それは一つの石だった。
「はい、これ......っ!?」
石を拾うシエラ。
そんなシエラは、目の前で起こる事に驚いた。
シエラが驚くのも当然だった。
それはシエラがその石を拾おうと、手を触れた瞬間。
突然、何の変哲も無かったその石が光り出したのだから。
そしてもっと驚いたのが、シエラがいつも肌身離さず持ち歩いている指輪が、シエラが助けられたあの日握り締めていたあの指輪が男の落とした石と共鳴して光りだしたことだ。
指輪からは淡い....しかし力強い光が溢れ出し、シエラを包み込む。
「っ!?」
驚いたのはシエラだけではないようである。
その様子を見ていた男は、何かとても驚いて動揺している。
何か、予想外のことを見てしまったように。
スウゥゥッ―――。
暫らくするとその光も治まった。
石は最初と変わらぬただの石に、指輪はいつも通りのただの指輪に戻る。
「あ....あのこれ」

