ライルが辿り着くまで───もう少し。
「シエラのお母さんの声?」
「........今、確かに聞こえたの。
間違い無い。
昨日炎の中で意識を失った時もそうだった、あの時も母さんが街で起こっていること―――私がこれからしなければならないことを教えてくれた。
そして今回もまた......母さんが私達を導いてくれようとしているわ!」
こんな危機的な状況。
普通、既に他界しているはずの人の声が聞こえたなどと言えば窮地を前に気が狂ったのではないかと疑われる。
「........」
だが、カイムには今の彼女が気が狂っているとは思えなかった。
それどころか妙な説得力を感じた。
確証などあるはずもないことなのに、この危機的状況で彼女の突拍子の無い発言を信じられた。
「貴方一人に戦わせるのは耐えられない。
.......母さんの声の通りに念じてみる。
どうにかこの場を切り抜けられるように。
だからお願い、私にやらせてみて」
そう言い敵を見据えるシエラの眼差しがあまりに強くて、カイムは前に踏み出しかけた足を止めた。
「分かったよ」
「っ!
ありがとう、カイム」
ライルが辿り着くまで、あと十メートル。
今度はカイムに変わってシエラが前へと進み出る。
ッ。
あと五メートル。
その距離は確実に縮まる。
殺気を帯びる熱も次第に増す。
その熱はじりじりと燃える炎のように熱く、そして凍てつく氷のように鋭くて寒い。
ゴクリと息を飲む音が、やけに誇張される。
―――......。ッ。
そしてとうとう敵対する二つの影が一つに重なる瞬間が、来た。
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