いつ頃からだろう。こんな世界になってしまったのは。
確かそれほど昔の話ではないはずだ。
シエラの記憶には無いが、五年くらい前、大きな戦争が起こったらしい。
多分、その時からだ。
人間と魔族が対立し始めたのは。
その戦争が起きる前は、人間と魔族は共存して生きてきた。
世界はこんなに荒んではいなかった。
でも、それがあることをきっかけに脆くも崩れ去ってしまった。
相手が自分の敵だと分かれば、容赦なく傷付ける。
相手を人とは考えずに殺しあう。今は、そんな世界。
人間の非力な少女。魔族の軍人の男。
力は歴然。結果は明瞭。
今の状況はとてもまずかった。
唯一、幸いなこと。
それはこの男がシエラのことを、魔族だと勘違いをしているようだということ。
(でもこの人、何だか私のこと魔族だって勘違いを.....もしかしたら何とかやり過ごせれるかもしれないわ)
そうだ。気付かれなければ、問題はない。
シエラはそう思い、相手に気付かれないように小さく深呼吸した。
(.....落ち着け、私。
とりあえず人間だってバレないようにしないと。
それで上手く逃げればいいのよ)
シエラはパニックになった頭を落ち着かせて、息を一つ吐き出す。
相手に変に思われれば、そこで終わり。ここは、慎重にならなければ。
「.........おい」
「はへ?」
と思っているうち。唐突に声をかけられて、つい間抜けな声が。
(うわぁ......)
やってしまった。
この危機的な状況。
相手に自分の正体が気付かれてはいけない状況で、不自然な行動をとったらそれだけでも命取りになるのに。
(――――はへって)

