(俺は、いつからこんな残酷で非情な奴になってしまったのだろう?)
カツンッ。
ライルは呆然と歩きながら、ふとそんなことを考えた。
(誰かが苦しんだり死んでいったりしたとしても相手が人間だと分かった瞬間に哀しいだとか可哀想だとかそういう感情が沸かなくなる。
普通では居られなくなる)
感情が抑えきれなくなって手の平を握り締めて拳を作る。
やりきれない。
どうにもならないこの感じがもどかしくて仕方がない。
(.......涙さえ流れない)
ライルはそんなことを頭の片隅で考えつつ、歩み続けていた足を止め立ち止まり瞳を閉じた。
(.......いいや、俺は間違ってなどはないはずだ。
悪いのは人間だ。
ルシアスを殺したあの―――あの人間の女)
込み上げるもどかしさを振り払うように首を振る。
そして頭の中に一人の少女の姿を浮かべた。
ルシアスと同じ綺麗な蒼い瞳。綺麗なオレンジがかった茶色い髪。
はっきり言って、美しい人だった。
昨日初めて会ったはずの少女の姿がまるでずっと前から知っていたように鮮明に浮かび上がる。
(アイツが、あの女が全ての元凶だったんだ。
平和だった世界を壊しルシアスを奪ったんだ)
ッ。
(あの女さえ.......あの女さえ居なくなればっ!
世界は平和だった!
お前は今もこの世界で笑っていられた!
........憎い。
憎くて堪らない。この手で息の根を止めてやりたい。地獄に、いやそれよりもっと悪いところに突き落としてやりたい。
あの女を殺してルシアスの仇を討てば俺のこの戦いは終わる―――世界だって、ルシアスの望んだように.....平和になる)
そして思い出す。
ルシアスの仇のあのシエラという少女に剣を突き立てる自分の姿。
(そうだろう?ルシアス。
もう人を傷付けなくても済むんだよな?
罪の無い人間のためにだって泣けるようになるんだよな?)
ライルは自分自身に問い掛ける。
当然だが答えてくれる人は誰も居ない。
(........大丈夫だ、きっと。
ルシアス、お前の為ならば俺は何だってやってみせると誓ったんだ。
俺が今考えなきゃならないことはあのシエラという女をこの手で倒すこと。
あの女の胸に裁きの剣を突き立てること。
それだけだ、それが俺のすべきことだ)
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