さっきの男との何気ない会話。
思い出す先程の記憶の中に見つけたのは、決して聞き逃してはいけないはずの言葉。
明らかに、自分の今の状況―――つまり男の背を追う自分と、矛盾する言葉。
(...........魔族って)
魔族。
頭によみがえるその単語に、顔面から蒼白していくのが分かった。
歩き疲れうっすら滲み始めていた額の汗が、引いていく。
(......まさか、この人―――)
まさか。
そんなこと、あっていいはずがない。
平和なこの自分の故郷に、世界の争いとは無縁だと信じ込んでいたこの場所にまさか、魔族が居ていいはずなどない。
シエラの思考は、一瞬停止した。
ありえない。
でも、その否定は繰り広げられる思考の中で段々と姿を消していく。
シエラのことを魔族だと言い、親切なことにこうやって道まで案内してくれる。
こちらを傷付けようとする様子もない。
相手の後姿に感情を見ることは出来ないが、殺気のようなものは感じはしない。
間違いない。この男は魔族だ。
シエラの中で嫌な推測が、確信へと変わった。
今のこの世、人間と魔族はお互いのことを憎み合い歪み合って暮らしている。
お互いを殺し合い、哀しみをより深く消えないものへとしていく。
理由はただ、相手が人間だから。魔族だから。
ただそれだけで、互いを簡単に殺し合うような世界だ。
シエラは人間の少女。
相手が、魔族。
今のこの世界で、魔族が人間に人間が魔族に馴れ合うなど.....絶対にありえないのだ。

