勇気を出して声をかけてみた。
「.......誰だ」
暫らくの沈黙の末、返事が聞こえる。
誰だというのはこちらの方が聞きたい。そう思いつつ人が居ることを確信し、続けて尋ねる。
「ちょっと道に迷っちゃって。
知っていたら教えてもらえませんか?この辺りにあると思うんです。レイリスの花がたくさん咲いている場所」
シエラの問い。
それに声の主は、木の陰からスッと立ち上がりそしてシエラを見た。
上から下へ。
何かを確かめるように、じっくりと見ていく。
「........魔族の子か。
ちょうど近くに行く用がある。ついでだ、送っていこう」
背が高い男の人だった。
黒い髪に黒い瞳。それに男は周りに黒い闇のようなものが纏わり付いているように見える。
何故か分からない。だがシエラは男を見た時、背筋が凍るような感覚に襲われた。
どこからか湧き上がる、嫌悪感にも似た寒気。
今考えれば、これはこれから起ころうとしていることに対しての本能的な警告だったのかもしれない。
駄目だ。
この男に関わっては。
そんな痛烈な、でも伝わることが無かった警告。
「ありがとうございます!」
それでもこの時、エルザへのプレゼントのことしか考えられなかった。
だからシエラは湧き上がる寒気に気が付かないふりをして、拭えない少しの不安を抱きつつも男が場所を知ってるということで結局、連れていってもらうことにした。
知らない人にはついていっちゃいけない。
そんなエルザの教えは、この時のシエラには何処かに行ってしまっていた。
(......それにしてもこの人、こんな所で何やってたんだろう?)
歩き始めた男。
どんどん先へと進んでいく男の背を見失わないように付いていきながら、シエラはそんなことをふと思う。

