mirage of story

 




 



彼女は、敢えて自ら彼の温もりを静かに押し返した。







 
「カイム。
行きましょう、私達の旅へ。
私達の目的を果たすために」




温もりの余韻に未練を覚える。

だがもう彼の腕の中には戻れない。
彼女は戻らない。








「........あぁ、陽もだいぶ上がってきた。

そろそろ行こう。
もしかしたら、昨日の奴等が俺達を捜しに来るかもしれない。
まずは早くこの場所から離れよう、そしてなるべく遠くへ」






―――――。
二人は頷き合う。

そしてそれから、もうすっかり高く昇った太陽と静まり返った無の大地に背を向ける。 


旅立つ心強気二人の背中。

揺らめく太陽はただ静かにそれを見送った。
二人の旅の良き結末を祈りながら、ただただ見送った。










.........。

影を照らし出す太陽。
二人の後ろ姿に、踏みしめる広大な世界。
明るく煌めく朝。

止まりかけていた運命の歯車がこの時軋み揺らぎながらもゆっくりと廻り始めたことには、シエラもカイムもそしてライルやロアルも―――それどころかこの世界を創世し見守ってきた神もさえも、まだ気が付いてはいないのだった。








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