辛い哀しい現実からこの身を引き離して、このままカイムの優しさに縋ってしまいたい。
何もしないまま、この安らぎの中に溺れ続けたい。
―――――そうシエラに思わせてしまう。
..........。
でも、いつまでもそんなこと言ってはいられないのは彼女にも判っていた。
残酷にも二人にはそんな時間など与えられてはいなかった。
ッ。
今の二人に与えられた時間は、ただ大切な者達をこの手から奪っていった憎むべき者達に制裁を―――消えていった者たちの痛みをそして大切な者を失った自分達の苦しみを奴等に魔族に与える。
ただ、それだけの時間しかない。
......。
今、この幸せを優しさを暖かさをいつまでも感じていたいという彼女のささやかな願いは許されない。
叶うことは無い。
痛い程に分かっていた。
それは勿論カイムにも。
(.........)
だから彼女自分の気持ちを押し込めて自分の奥に鍵を掛ける。
悲しく冷たくそんなささやかな願いを押し込めた心の扉に重い錠が落ちる音を、彼女は彼の腕の中で聞いた。
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