mirage of story




 
 
 
なのに、目の前のルシアスという少女は『助けなければ』という。
しかも"姫"という、明らかなる高貴な立場で。

魔力がないことなど、関係ないことだと言う。 




今までの者たちとは違う。

このルシアスという少女は、初めて『ライルの存在』を心から認めてくれたのだ。






(......何だろう、この気持ち)


ライルは、自分の中に何かが込み上げてくるのを感じた。






―――ふわっ。

そんな何か分からない感情に困惑するライルは、何か唐突に温かいものに包まれたのを感じた。




それが何だか、最初は分からなかった。だけど、少し間を置いてライルは自分の状況を把握する。







(......え....)



ルシアスの小さな体が、ライルを優しく覆い込んでいた。
脳が次第に状況を把握して、一気に身体が熱くなる。


そんなライルの焦りを余所に、ルシアスは言う。





「辛い時は、笑って居ちゃ駄目。
辛くても笑って居たら、本当に嬉しい時や幸せな時に心から笑えなくなっちゃうもん。 

―――これからは、辛い時は私が傍に居てあげるから。
だからお願い。
もう無理して笑わないで?」






その言葉に自然と、ライルの瞳から涙が零れた。

泣かない。
そういつの間にか自分を制していた枷が、スッと取り払われたのが分かった。






(―――僕、もう我慢しなくていいんだ)



そして涙が流れると同時に、ライルの心にそっと一つの思いが沸き上がる。