mirage of story









この日はシエラのエルザにとって特別な日だった。
五年前。いや、昨年のことだから四年前になる。

四年前のこの日、この村の近くの森の中で二人は出会った。
とはいっても、シエラは意識を失っていたので出会いがどんなだったかは知らなかったが。




聞いた話では、どうやら酷い怪我を負って森の中に倒れていたらしい。
全く自分の記憶にはないが、今生きていられるのは助けてくれたエルザが居たからだという。



命の恩人。
エルザは助けてくれたばかりではなく、今でも自分の面倒を見てくれている。

本当に感謝すべき人なのだ。
記憶はなくとも、それだけはちゃんと分かっていた。



 

感謝しても、感謝しきれるものではない。

だからシエラは母として接してくれるエルザに報いるように、娘となろうと努力した。
記憶がなく本当の母のことを知らない彼女にとっては努力ではなく、自然と親子という形になっていったのだが。


温かくて、優しい。
それでいて、決して甘やかしたりはしない。
エルザは、本当にいい母だった。