mirage of story

 
 
 



 
不思議に思い、その気配がした方を振り返る。

すると視線に映ったのは、夜の闇色と何かを考え込んで立ち止まる主のロアルの姿。






「.......あの、どうかしましたか?」


ライルは様子がいつもと違うロアルに戸惑いつつ、恐る恐る声をかけた。








「......っ。いや、何でもない。
少し、昔のことを思い出していたのだよ」



ロアルはちょっと、笑いの含んだ声で答えた。 







「?」


「........もう随分と、昔のことをな」





ロアルはそう静かに言うと、それきり口を閉ざした。

闇に溶け込むロアルの艶やかな黒い瞳が、いつもとは何処か違う光を放っていて
まるで別人のようでさえ思えた。 





だから、ライルはこれ以上は何も聞かなかった。 

聞いてはいけない。
なんとなく、直感でそう感じた。 




そして闇の中で暫らくその場にただ立ち尽くす自分の主の姿を、静かに見つめていた。