今まで黙っていたライルの想いの矛先であるロアルは、静かに口を開いた。
「あのままあの娘の仲間と戦っていたら、我々まであの炎に巻き込まれていた。
そうであろう?」
ロアルの闇色の瞳が、ライルを捉えて言った。
確かに今にも崩れ落ちそうな炎に包まれた村の中にあれ以上居たら、本当に危なかったかもしれない。
それは、事実だ。
でも、ライルの気持ちはどうしても治まらない。納得出来なかった。
「――――ですが!」
「...........お前の主人は誰だ?ライル。この作戦の指揮をとっているのは、誰だ?
分かっておるだろう?
今日の第一の目的は果たせたはずだ。あとは明日に賭けるのが良策だ」
「......ッ」
その言葉に、ライルはギュッと拳を握り締めた。
何も言い返すことが、彼には出来なかった。
「策を為すには、それに相応しい時というものがある。
その時まで待つのだ、ライル」
「........はい」
ライルは、ただ唇を噛み締めて従うしかなかった。
今、目の前にいるこの人は......ライルが忠誠を誓った、魔族の王なのだから。
絶対的な存在なのだから。
人間を滅ぼし、世界を平和に導く指導者なのだから。自分の君主なのだから。
(.....まだチャンスはある)
ライルは自分に言い聞かせた。
そうすることで、どうにか気持ちを宥めた。
完全に治まるのは到底無理だが、少しだけ冷静になった気がする。
頬を撫でる冷たい夜風を、感じられるまでになっていた。
(.....必ず仇を取る、待ってろ)
冷たい夜風にライルの熱い想いが溶け込むように交ざりあった。
空気がグラリと歪んだ気がした。
「....?」
ッ。
熱く夜風に想いを馳せるライルは、ふと何か異様な気配を感じて不意に足を止める。
(何だ?)

