そして、カイムは心に誓ったんだ。
もう二度と後悔することのないように。
もう二度と大切な人を自分の無力さで、失うことのないようにと。
(――――なのに)
なのに今、自分はまた何もすることが出来ないでいる。
ここでシエラまで失うことになったら
そう考えると、悔しさと恐ろしさで体が震えた。
「俺は....どうすれば」
ザァーッ。
そんな煙に行く手を阻まれるカイムの前に、唐突に風が吹き抜ける。
穏やかな、でも強い風。
(ッ!)
カイムは一瞬、自分の目を疑った。
今の風で、辺りに立ちこめていた煙が、うそのように晴れたいくのだ。
ほんの少しの間で、村の中の景色がはっきり見えるまでになっている。
「煙が.....晴れた」
不思議だった。
あんなに辺りを覆い隠していた煙が、さっきの風だけで......ここまで晴れてしまったのだから。
これは神の導きか。
それとも悪魔の誘惑か。
どっちにしろ、今のカイムにとっては感謝すべきことには変わりはない。
(―――よし、先に進もう)
あまりのタイミングの良さに、カイムの中に一瞬の迷いが生じる。
だが今のカイムには、この状況を不思議がっている暇はない。
もう少しすれば、また辺りは煙に包まれてしまうだろう。
さっきの風は、神が自分に与えてくれたチャンスなのだ。
大切な者を再び失わないように、神がくれたチャンスなのだとカイムは自分に言い聞かせる。
このチャンスを無駄には出来ない。
だから、カイムは再び走り始めた。
まだ姿の見えぬ、シエラの元へ。

