此処はシエラにとってエルザとの思い出の場所。
此処でよく花を摘んだ。
此処でよく、星空を見上げた。
天気のいい日には、お弁当を持って此処へと出掛けて一日中駆け回った。
あぁ、懐かしい。
懐かしい思い出だ。
シエラは失った記憶、失った時間を取り戻すかのようにエルザとたくさんの思い出を作った。
たくさん笑い、時には泣いた。幸せで満ち足りた時を刻んだんだ。
だから、ここはシエラにとって楽しくてよい思い出の詰まった場所。
だから、この場所に戻ってきた。
この思い出の詰まった場所で、大好きなエルザに会うために。
いや。
でもそうではない。
思い出の場所であることには違いない。楽しい日々を回想させるのも、また嘘じゃない。
でも、違うのだ。
此処にはシエラにとって、エルザとの楽しい日々の思い出よりもずっと深く、心に刻まれるものがある。
それは、哀しみ。
もしくは、憎しみ。
そんな拭いきれない程の、深い深い心の陰。
何故か。
何故この場所に、そんなものがあるのか。
その理由は明白だ。
何故なら此処は、シエラとエルザの永遠の別れの場所でもあるから。
理由は、それ以上のものはない。
もうエルザは会うことの出来ない人だから。
「.........」
シエラは柔らかな光が差すこの丘に一人、ただ立ちすくんだ。
シエラの大切な人。
シエラにとっての母、エルザはもうここには居ない。
エルザという女性。
彼女は今、シエラが立ちすくむこの丘の下で眠っている。
二度と覚めることのないながい、永い眠りの中にいる。

