mirage of story

〜10〜







(....すごい煙だな)




村の中に入ったカイムは、村中に充満する煙に戸惑っていた。
煙が目に染み、目をまともに開けていることさえ出来ない。








(これじゃ、前が見えないな。どうするか?)





カイムは、この煙の中で身動きが取れずにいた。

何か見えないか?
そう思い辺りを見回すが、何かが見えるどころか何の気配もしない。









(.....やっぱり村の人たちが居ないな)




もうすでに逃げたのか?

それとも。










カイムは、頭の中のそんな考えを無理矢理かき消し、視線を前に戻した。
そして、一向に晴れようとしない煙を忌々しく思いながら言った。







「―――急がなきゃならないっていうのに」





急いでシエラを捜し出さなければ。
そう思うのだが、この煙の中でむやみに進めばシエラを助けるどころか、自分が煙に飲まれてしまう。











(........俺は、また何も出来ずに終わるっていうのか?)





カイムは、まだ記憶に新しいあの日を思い出した。
カイムが故郷を失い、大切な人を失い、途方に暮れたあの日を。


カイムはあの時、何も出来ずにただ見ていることしか出来なかった。
故郷の最期を。母の最期を。












何も出来なかった自分が嫌だった。
いっそ自分も死んでしまいたい.....そう思った。

でも今、カイムはここに生きている。






母の最期の言葉、自分を待ってくれている仲間の存在に支えられて。