mirage of story

〜9〜








(あれ、シエラ!?)



近づいてくる人影は、やはり間違いなく二月ほど前に迎えに行くと約束を交わした彼女。シエラその人。









「おーい、シエラ!」



カイムは手を振り、人影に向かって叫んだ。








そして感動の再会。
頭の中でそんな光景が先走って流れる。



だが、そんな再会の光景は頭の中だけで終わる。
頭の中に流れる光景は、カイムのただの空想となり崩れ去った。





どうしてか。

それはシエラはカイムの横をすり抜けて、そのまま走り去ってしまったからだ。
まるで見えていないかのように。






「なっ!?」


カイムは自分の横を過ぎ去っていったシエラの方を振り返る。







(.......完全に無視か!?)






「――――.....」



久しぶりだったのに。
せっかく迎えに来たのに。

地味にショックを受けながら、遠ざかるシエラの背にカイムは考える。







(それにしても、何であんなに急いでるんだ?

しかも、今のシエラの顔......)



カイムの横を走り抜けるシエラの顔は、青ざめ強ばっていた。
自分の知っている彼女のものではなかった。


それに急いでいたとはいえ、すぐ近くに居た自分に気が付かないのもおかしいだろう。
暗い中といっても、人が居ることくらいは分かるはずなのに。






ゾクッ。
カイムは何だか胸騒ぎを感じた。






(何かあったのか.....?)


そう思うカイムは、彼女が走り去っていった方を改めて見た。






見たその先、シエラの姿はもう見えなかった。
.....だがその代わりに、その視線の先にあるものが飛び込んでくる。




(煙?)



それは何か黒い煙のようなもの。
風にのって、何かが焦げたような匂いのようなものもする。










「火事か!?」