こんな環境に生まれなければ、自分はもっと幸せになれたのではないか?
自分は、不幸だったんだ。
そう思っていた。
だけど今になっては、そんなことを考えていた自分が、幸せの本当の意味を知らない馬鹿だった。そう思ってしまう。
(結局、あの時の俺は自分を哀れみたくて、自分の境遇に甘えていただけなんだな)
カイムはそう思い、心の中で薄く笑った。
ッ。
「―――着いた」
孤独や不安の気持ちから逃れるように、歩き続けて数日。
カイムはシエラの村の近くの森まで辿り着いた。
もう、空の夕陽は沈み、月が辺りを照らしだしていた。
(.....ここは確か、シエラが話していた森)
カイムはシエラから、いろんなことを聞いていた。
村のことも。
風が吹き抜ける丘のことも、この森のことも。
(えっと、確か....この森は入り組んでいて迷いやすいから入らない方がいいとか言ってたな)
シエラのそんな言葉を思い出し、カイムは月灯りに照らされる森を見つめた。
月に照らしだされたその森は、何だか不思議な雰囲気を作り出している。
シエラの言う通り、無闇に中へ入らない方が良さそうだ。
不思議な力で森全体が包まれているような感じに、カイムは吸い込まれるように森をただ見つめていた。
「ん?」
そんな不思議な森の中から、不意に何か。
そんな何かをパッと視界に捉え、カイムはその何かを見た。
(人か?)

