言われてみれば、そうだった。
こんな日、今日のような日には普通ならば大々的にその名を掲げて人々は祝いの声と共に何度でもその名を口にするだろう。
それなのに、今日誰もが一度たりともそれらしきものは耳にしていない。
ましてや誰もがそれを口にしていない。
これは一体、どういうことか?
答えは簡単である。
何故ならば―――まだ誰一人としてその名を、この新たなる国のその名を知らないからだった。
「この国は生まれたばかりでまだ立ち上がっただけに過ぎない。
まだその初めの一歩は踏み出されていない。
........名を、この国が真に動き出すための名を今此処で命名したい!」
ッ。
「炎竜!水竜!」
凛とした響きの余韻が空気に残るまま、その空気を切りライルは片手を空に翳した。
空は雲の欠片も無き蒼天。
太陽が見上げた空の端で穏やかに輝きを放つ。
"待ち詫びたぞ"
ッ!
蒼天がカッと光り、それを背にして現れる二つの人とは明らかに異なる異形の影。
神々しい。
瞬間、誰も彼もがそう思った。
「この国の名は―――彼等に授けてもらおうと思う。
気高き彼等はこの国、この世界を未来永劫世界が揺るがぬ限り見守る存在となる。
そんな彼等に名を貰う......何か異論のある者が居れば今此処で申し出てもらいたい」
そう言う声。
だが勿論、名乗り出る者は誰一人居ない。
「安心したよ。
異論がある者は居ないようだ」
本当は聞かなくとも判っていたのだが、やはりその予想は当たっていたようである。
ライルは笑いを零し、空に現れた二つの影―――彼が契約者である紅き竜炎竜と彼の隣に立つシエラが契約者である蒼き竜水竜の美しく神々しいその姿を見つめ直した。
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