「........ごほんっ。
式典の進行が遅れてしまってはいけない。
ライル殿、どうぞ先へ」
しまった、と思えどもうどうにもならない。
ロキは一つ皆に聞こえるように咳払いをして、何事も無かったようにいつもの顔に戻す。
今のは忘れろと言わんばかりの無言の威圧に、少しだけ騒めいていた民達をシンッと押し黙らせた。
その威圧感に、言葉を向けられたライルも無言でコクリと深く頷いた。
「........さ、さぁ!皆、気を取り直そう!
新たなる国の始まり、それはつまり平和への始まり。
改めて言うが、これほどに嬉しくめでたい祝いの時は無い」
ッ。
シンッとなった中、数秒間沈黙が支配した後に一時途切れた緊張を再び張り直したライルの凛とした声が響く。
「めでたい日、今夜は共に笑い共に祝い酒でも酌み交わそう。
先の戦いで失った仲間達を弔い、彼等の分まで輝かしいこの国の世界の未来に想い馳せよう!
......だが、まだだ。
皆よ、まだ何か大切なことを忘れていないか?」
一時止まっていたが再び前へと進み始める式典。
凛とした声で言い、そして問い掛ける王となる彼。
その問い掛けに、民の波の中からポツポツと答える声が上がる。
問い掛けの答えは決して難しく考えを巡らせなければ出て来ないようなものではなく、むしろ民達はこのライルの言葉より前からずっと気になっていたもの。
心の内で待っていた時。
この今日というこの日で一番大切で、一番の要であると言っても過言でない時。
「――――そう、この国にはまだ......名が無いんだ」
所々で上がる声。
口々に呟かれる問い掛けの答え。
暫く間を置いてその声に充分に耳を傾けてから、ライルは頷き民達の声を肯定する。
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