ッ。
ライルはシエラに視線を戻さないままで、そっと手を彼女の頭に置いた。
ちょうどライルの肩くらいの位置。
そっと置いた手に彼女の柔らかい髪の感触と、ふわりと香る甘い芳香が漂った。
「ありがとう」とシエラも彼には視線を向けないまま、少しだけ顔を赤くして答えた。
合わせる視線。皆の視線。
その全てがシエラとライルの存在を肯定していた。
「――――おいおい、公衆の面前で堂々といちゃついちゃって。
あー、やだやだ。
見せ付けかい?羨ましいねぇ!」
温かくて穏やかな空間。
広場一面の人。
そんな中、背後から唐突に聞こえるのは二人にとっては聞き慣れた軽い口調。
声の主は見なくとも分かる。
だけれど振り返らない訳にはいかない。
二人が同時に振り返れば、予想を反しない銀色の髪。紅の瞳と軽い笑み。
「........連れて参りました」
そのまた後ろから、軽い口調とは打って変わっての感情の籠もらない冷静な声。
見れば片側だけ長い灰色の髪と紫色の瞳、至極落ち着いた雰囲気の人影が二人に礼をする。
「ジェイドさん!ロキさん!」
「よっ!
すまねぇな、少しばかり遅れちまったようだな!」
見慣れた二人の名を呼んだ。
ジェイドはひらりと手を振り、ロキは礼を深める。
取り巻く民達を前に、救世主と称される者達四人が方を並べる様子に民達の瞳に煌めきが増す。
「........少しばかりでは無いだろう。
もう式典の大半は終わっている」
「大遅刻だな」
ロキとライルが全く反省の色の見えないジェイドに、ほとんど同時に言う。
ロキはいつもの如く無表情で、ライルは諦めたような呆れ笑いで。
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