「―――――」
皆が彼女を見つめる空間に言葉が響き、余韻の中で遠くを見つめて暫し黙る彼女。
ッ。
その遠くを見つめる視線が不意に揺らぐ微妙な仕草を、隣に居たライルは敏感に捉える。
「どうかしたか?」
「.......っ。
いいえ、何でもない。
ただ色々と思い出していたの。
沢山のことがあったから―――本当に沢山のことが」
声を掛けられてハッとしてライルを見る。
巡る記憶の中に一点小さな棘のように引っ掛かる違和感が彼女の心に疑問を残した。
それが一体何なのかが彼女には判らなくて、きっと気のせいであると言い聞かせて笑って答える。
そんな彼女の返事にライルは「そうか.....」と短く返した。
「...........安心していい。
確かに誰にも過去は消せないが、お前が生きた道を咎める奴も否定する奴も此処には居ない。
シエラ、お前が思うように俺も不安だよ。
........戦いの中ではあったが、俺は沢山の人の命を奪った。恨まれても憎まれても当然の過去だ。
だけど、見てみろ。
今此処に居る者全てがお前を見ている―――真っ直ぐ未来に希望を見据えた瞳で俺達を見ているんだ。
今こうして皆の前に新たな王として立つ俺達の姿に、希望を見てくれているんだ。
誰もが今のお前を、シエラをそしてルシアスを受け入れて此処に居るんだよ」
短い返事の後、数秒の沈黙。
シエラに集まっていた皆の視線が、彼女だけでなくライルを含めた二人に移る。
ライルはその中で彼女から視線を逸らし、周りを一瞥。
彼等の瞳に映る自分達の姿とその奥に揺れる光を見た。
「お前はお前のままでいい。
王だとかそんなのは関係無く、お前がルシアスを経てシエラとして生きると決めたならその決めた道を真っ直ぐに生きればいい。
今のお前になら、皆付いて来てくれる。
それは、俺が保証する」
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