mirage of story







「私はルシアス。
世界を争いに陥れた闇の元凶となってしまったあのロアルが統べた国の本当の後継者。
私はシエラ。
魔族を憎んで復讐を、仇を討つと心に決めて世界に飛び出した一人の人間。

私の中には、二人居る。

彼女達は全く違う二人。だけれどその二人はピタリと重なる紛れもない同じ人。
ルシアスとシエラ、二人が一つであって初めて今の私が居る。

彼女達二人が生きた軌跡は、私にとって決して無くしちゃいけない過去なの」





冴え返る記憶。

ルシアスとして生きた道。
シエラとして生きた道。








「魔族。人間。
これから先はもうそんな隔たりは関係無いけれど、互いに背負った心の負は残される。

......私はどちらの味方でもあったわ。
でも、それと同時にどちらの敵でもあった。

どちらの敵でもあった以上、どちらからも恨まれても憎まれても私は可笑しくない存在。

もう一度だけ確認をしたいの。
そんな私を、皆は本当にこのまっさらで綺麗な国の王として迎えることは皆の心からの願いなのかを。
本当に私でいいのかを」






優しく聡明な父と母、周りの全ての人々と国の民―――そしてライルと笑い合った煌めくルシアスとして過ごした幼少の日々。

そして戦いと共に全てが一変し全てを一度失い、エルザに救われて何も知らぬままに新たにシエラという人間として生きた日々。



戦争を皮切りに狂い始めた運命の最中で、ルシアスとは完全に切り離された一人の人として様々な人と出逢い生きた。

日々に深まる戦いの色。
何もかも知らぬままに平和に生きていた彼女は、本来の運命に引き寄せられるように戦禍に巻き込まれた。


戦いに。哀しみと憎しみに駆られて、平和を求めて戦いの深まる世界に飛び出した。

そう、一人きりで。











(..........一人....で?)



皆を前にこうして立ち、言葉を紡ぐ今。現在。
冴え返る二人の彼女のそれぞれの過去。

頭の中を走馬灯の如く巡る記憶に、ふとある一点の違和感を感じて立ち止まる。






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