助けなければ。
そう頭では思っているのだが、この風の前ではどうにも出来ない。
自分の無力さに、剣を掴む手に力が入る。
その間にも、黒い風の渦は勢いを増して村を飲み込んでいく。
―――ッ!
カイムは意を決して身体を支えていた剣を引き抜き、黒い風の渦に飛び込む。
だが、黒い渦はそれを拒むかのようにカイムを跳ね返し、村への侵入を許さない。
(どうすればいい.....俺はどうすれば村の人たちを、母さんを救える!?)
カイムの焦りとは裏腹に、黒い渦はすでに村をほとんど飲み込んでいた。
「....どうすりゃいいんだ!」
カイムの頭の中は、もう真っ白だった。
どうすればいいのか。
考えるほどに分からない。
飲み込まれゆく自分の故郷を目の前に何もすることが出来ない自分を呪った。
強まる風。
何も出来ない自分に、焦る気持ち。
そんな混乱の中、不思議なことが起こった。
全ての音を掻き消していた渦巻く風の轟音が唐突に、辺りから消えたのだ。
「――――生きなさい、カイム」
何かの前兆か?
そう思ったカイムに響く声。それは母の声。
一瞬、母の声が聞こえた気がしてカイムの思考は途切れた。
「母さんっ!?」
ゴオォォー.....ッ。
一瞬聞こえたはずの母の声に、カイムは声を上げる。
だが、再びの地を轟かすような轟音でかき消された。
そして―――。
ッ!
その次の瞬間、村を完全に飲み込んだ黒い風の渦が一気に弾ける。
それと同時に村、カイムの大切な人達は一瞬の光を放ち―――消えた。
(.......あ....)
全て消えてしまった。
カイムは結局、ただ自分の故郷と大切な人たちが消えゆくのを見つめることしか出来なかった。
それ以外、何も出来なかった。

