そんなキトラの死。
周りがこれからの戦いに気を張り詰める中、その現実を突きつけられたジェイドはその動揺は外には一切漏らしはしなかった。
戦場には死が付き物。
その上にあの時の状況であれば、生き残る者の方が幸運であったのだから尚更だ。
動揺は周りに伝染する。
ジェイドは平然とした偽りの彼で馬を走らせた。
"―――ッ"
なるべくこれからの戦いに集中するようにしていた。
心の中に残る動揺は忘れるようにしていた。
だが。
だが、あの時感じてしまった。
死地へ赴く最中、横を過ぎ去る殺伐とした戦場の風景の一角に。
確かに、キトラの気配を。
私情で進軍を止めてはいけないのは十分に分かっていた。
一人の勝手な行動は、周りの者を危険に晒すことへ繋がることも軍門を下ったジェイドは痛いほど知っていた。
だが手は無意識に手綱を引き、走らせる馬を止める。
自分でも馬鹿だと思った。
知らぬふりを、気が付かぬふりをして過ぎ去ってしまえばよかったのにあの時ジェイドは足を止めた。
止めてしまったから、もうその気配を無視することは出来なくて勝手だと知りつつ一人進軍から外れる。
共に居たロキはジェイドの何かを察したか、深くは聞かずにそれを許した。
ジェイドを残して遠ざかるロキとその後を追う生き残りの兵達。
その後ろ姿を見送ってから、もう無視出来なくなってしまった気配へと意識を戻した。
やはり、キトラの気配だった。
生きているのか?
湧いた微かな希望と不安を押し込めて、ジェイドは気配の強い方へと向かう。
戦場を歩く。
少し歩いただけなのに、周りは屍だらけだった。
大地には大きく抉られた無数の傷跡。
その中でキトラの気配を追って、その気配の中心まで来た。
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