mirage of story










何もない大地の上で紡がれる独り言。
でもそれはまるで、目には見えない誰かに語りかけるような声。


ジェイドには視線を送る小さな花束の向こうに、相手のその姿が見えているように思えた。


















「......だからもう大丈夫だ。
安心して眠ってていい。

頼りないかもしれねぇが、俺に任せとけ」





見つめる瞳の奥に映し出されるのは、哀しみと最期に見たキトラの姿。







思い出されるその記憶は、遠いようでまだ真新しく残る。


三年前、闇が世界を崩壊へ導こうと攻勢を深め魔族人間共に多すぎる犠牲者が出た。
両者の生き残りが存続を掛けて闇との対峙に挑む中、ジェイドはロキ達と共に馬を走らせていた。



光の竜に呼び寄せられて戦場に散らばる生き残った者達が集められて、それぞれが手を取り命を掛けての進軍。
集められたその中に、ジェイドは表には出さないながらもキトラの姿が見当たらないことに一人哀しみに暮れていた。

この戦場の上に必ず居るはずのキトラが、あの場に居なかったというこてが示すのは彼の生の可能性が絶たれたことを意味していた。




本当の兄弟ではないし、血の繋がりも無かった。
古くからの知り合いでも無ければ、彼の生い立ちすらもジェイドは知らなかった。


ただいつの日かの昔.......まだ俺が魔族として人間をひたすらに憎んでいた時、親を人間との戦争で失ったまだまだ幼すぎたキトラにジェイドは励ましと慰めで手を差し伸べただけ。
彼が本当に軍門を下り、同じ部隊で共に戦うことになるとはあの時は思っても見なかった。



自分のことを兄貴と慕うまだ幼い彼。

ジェイドは誰か他人に入れ込み深く馴れ合うというのはあまり無かったが、それでも自分を無邪気に慕い続けてくれるキトラが可愛い弟のように思えてきていた。







.