その人の手には一つの花束。
決して派手でも煌びやかでもない、小さくて清楚な花束としては少し物足りないとも思える。
ただ花の香りは他のどんなに綺麗で美しい花束にも負けないくらい、ふわりとよく香った。
パサッ......。
笑みを浮かべ大地に佇むその人は―――ジェイドは暫く大地の果てを見つめると徐に長身の身体を屈める。
そうして彼は、手にした小さな花束を何もないただの大地に丁寧に置いた。
そんな彼の瞳は、顔に浮かぶ笑みを裏切りとても哀しげだった。
「..............よう、また来てやったぜ、キトラよ?」
ジェイドは地面に身を屈めたまま、地に置かれたその花束に想いを馳せるように彼の紅の視線を注ぐ。
笑っている。
だけれどやはり、彼はとても哀しそうだった。
「あれからもう三年が経つんだとよ?
........早いもんだねぇ。
お前がもしも生きていたなら、もう酒を酌み交わせてたってのにな」
視線の先の花束。
小さな質素な花束。
それは、弔いの花束。
憂いを含んだ笑顔で、ジェイドはかつて自分を"兄貴"と慕った仲間の名を零す。
今は居ない、彼の名を呟く。
キトラ。
そう。
それは三年前の戦いの時、ライルが指揮する魔族側の先鋭部隊の一人の少年。
以前から続いていた人間との戦争で全てを失った彼にジェイドが生きる希望を与えた少年。
キトラはジェイドのことを本当の兄のように慕い、ジェイドが逃亡者として国から追われる身となってからも彼はジェイドを信じ続け捜していた。
金色の髪を長く伸ばし、それを一つに括ってはジェイドの真似をしていた。
兵士としてはまだあまりに若すぎたが、ライルの指揮する先鋭部隊の中で彼の戦闘能力は周りに引劣りはしなかった。
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