彼の顔も声も名も。
共に過ごした日々も、分かち合い抱いた感情も。
彼の存在。
彼の居た痕跡。
そのどれもが、世界に一筋の傷も残していない。
彼という存在はあの時に、世界から人々の記憶から霧のように消え去り欠落した。
今もしも、この世界の誰かに.....そう彼等に彼の名を問えば、きっと肯定は返ってこない。
きっと不思議な顔をして、一体何のことなのかと問い返すだろう。
彼が居ない現実が当たり前に刻々と過ぎ去る世界の時に、誰一人何の違和感も感じはしない。
今まで確かに存在したはずの彼の居なくなった世界が、まるで前から継続されてきた当たり前の世界のように。
彼が欠落した世界は、平然とした顔で流れていく。
「あの日からもう三年が経つのか――――」
シエラとライルの新たなる王を掲げた新たな国の建国のその日。
国の民となる皆が一同に会し新たな国が祝賀の色一色に包まれる中、その祝いの外で黄昏る一人の人。
「.....ハハッ!早いもんだねぇ、まったく」
銀色の髪。
鮮やかな紅色の瞳。
かつてその人の髪は印象深い程に長かったが、三年前あの戦いが終わりすぐ後にばっさりと切り落としてしまった。
その人は今ではこの世界で誰もが知る人。
その人は静かな大地の上に独りきりで笑う。
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