つまり、人間との関係のすべてを断ち切るということを意味していた。
魔族と人間との間に不穏な空気が流れる中、カイムの父は決断を迫られたのだ。
魔族側は人間と戦争となることを予測していたのだろう。
人間へと繋がるものは全て断ち切っておかねばということか。
そして数日後、父は消えた。
それが意味するもの。
父がカイムとカイムの母を捨て、自らの地位を選んだという悲しすぎる現実。
(――――どうしてなんだよ)
カイムには、信じられなかった。
カイムの記憶の中の父の姿。
それは強く優しく、そして気高い姿だった。
そんな父が、自分たちを裏切っただなんて。
五年経った今でも信じることが出来なかった。
(何でなんだよ...父さん)
だから思った。
父が自分の前から消えた真実を、自分の目で確かめなければいけないと。
父に再び会い、どうして姿を消したのか。
どうして―――自分を捨てたのか。
聞かないままだったら、納得出来ないと思った。
どうしてもカイムは、父に納得のいく....カイムが望んでいる言葉を言ってもらいたかった。
自分は捨てられたなんて現実をその言葉で消し去って欲しかった。
父にもう一度会わなければ、シエラとの約束を果たさなければ。
その思いと大好きな故郷を離れたくないという思いがカイムの中では、いつも戦っている。
だけど、結果はいつも同じ。
まだこの村を旅立つ勇気が出ないでいる状態だった。
一歩、外の世界に踏み出せばそんな勇気、いくらでも湧いてくるだろう。
でも、カイムにはその一歩が果てしなく遠くに見えた。
(.....シエラのように強くなれたら)
カイムはそんな思いと共に、村へと帰る道を急いだ。

