mirage of story

 
 






 
五年前までは誰もが羨むような仲の良い家族だった。
父だって、家族のことを一番に思う優しい父だった。





だが、そんな家族の中を戦火が引き裂いた。


魔族と人間の対立が激しくなってきた頃。
確か魔族の姫が凄い力を手に入れ人間たちを滅ぼそうとしているとかいう噂が流れた頃だったか。

ちょうどその頃から、カイムの父は姿を消した。
周囲の者には、何も告げずに。









最初、カイムは父は必ず帰ってくると信じていた。


父は魔族の王宮に仕えていた。父は、魔族だったから。
だから時々、そちらの仕事で何日か家を空けることがあった。

だからこの時も仕事が立て込んでいるんだな、まだ幼いカイムはそれくらいにしか考えてなかった。






だから待った。
カイムはひたすら信じて、ひたすら待った。

だがいつまでたっても、父は帰ってこなかった。










帰ってこない父。



それから暫らくして、魔族と人間の争いが始まりカイムは悟った。

自分は父から、見捨てられたのだと。
もう父は自分たちの元に帰ってくることは、ないのだと。



でもそうだと分かっても、幼いカイムには何もすることが出来なかった。
何も出来ない無力な自分を、ただ恨むしかなかった。












父が消えて、数か月。
未だ、父が姿を消した真相は分からないまま。






でもたった一つ。父についての情報を、カイムは知った。


父が消えたのは、人間と魔族との間に争いが生まれる、ほんの少し前。
その情報とは、父が仕える魔族の王が父が消える数日前にある話を持ちかけたのだということだった。




その話とは、魔族に真の忠誠を誓えば未来永劫の高位の地位を約束すると。


魔族に真の忠誠を誓う。