"人は確かに弱く愚かだ。
血を分け合った者同士、血を流し合う戦いをする。
己の欲望で他の者を傷付け、世界を傷付ける。
それは大きな罪だ。
..........だが、人はその罪を振り返り悔やみそして償おうとする。
このままではいけないと、自らの足で前に進もうとする。
人はまだ進化の途中なのだ。
今は我等よりも遥かに劣るものも多いが、時が経ち人は自らを進化させいずれは我等を越える。
この世界が人の罪で汚れたというのなら、人が自らその罪に気が付き乗り越えるまで待てばいい。
人が我等を越えるその時まで、我等が待ってやればいい"
光を纏い闇の世界に美しく輝く竜は、穏やかに言う。
その言葉は何処までも優しく深く、全てのものを柔らかく包み込む。
闇に覆われた地上を見下ろすその瞳は、まるで子を慈しむ母のように温かい。
今の世界には似合わない、そして闇に冷え切った今の世界が求めるようなそんなものだった。
"我は充分すぎる程の時を待った!
貴様等が陥れた忌まわしき封印のその中で、愚かな人どもの欲望や憎しみを糧に失った力を取り戻してきたのだ!
何百年何千年と人が輪廻を繰り返す中で人の愚かさだけは変わらなかった。
それぞ我が幸いよ。
幾ら輪廻を繰り返そうとも人は人、その血に刻まれた濃く愚かな穢れは消えぬ。
........そして時は満ち足りた。
もう幾何のうちに人の命は尽き、人が作り上げし世界は壊れる。されば我が悲願はついに果たされるのだ!
誰にも邪魔はさせんぞ!"
グヴアァアッ!
闇が次第に荒げる声は咆哮に変わり、世界を荒々しく震わせる。
その咆哮はきっと世界を覆う闇に乗り、世界の隅々にまでも行き届いただろう。
咆哮響く戦場では、空気がグラリと揺らぎ衝撃となってこの場に居る全てを襲った。
ドオォンッ!
再び、闇色の竜は破壊を開始する。
もう、本当にお仕舞いだ。
誰もがもう目を伏せて諦めようとした。
だけれど、瞳に宿る光を絶やしはしないで光の竜は地上をまだ見つめていた。
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