「綺麗だなぁ」
村へと帰り道、見慣れた周りの風景を見回した。
夕陽の紅が、木々の緑を紅く染めて世界が鮮やかに彩られる。
カイムはここから見る、この景色が好きだった。
この夕陽も、ここから見える村もここのすべてが好きだった。
だからカイムはこの村をこの景色をいつまでも失いたくない。
この場所を世界を侵食する戦火なんかに奪われたくない。そう、改めて思った。
この村の景色を見る度に、やっぱりカイムはいつまでもこの村に居たいと思ってしまう。
シエラとの約束を、本当に自分は果たせるのか?
この村から、本当に旅立つことが出来るのか?
不安になる。
カイムの村は決して豊かとは言えないけれど、それでもカイムは皆で頑張って暮らしてきたこの村が―――この自分の故郷が好きだから。
簡単に決心など、出来なかった。
(俺は、此処が好きだ)
カイムは歩く足を、少し緩めた。
(だけど、いずれはこの村を離れなきゃいけない。シエラのためにも、自分のためにも)
カイムにとっての村を離れなければならない理由は二つあった。
一つ目のシエラとの『いつか迎えに行く』という約束を果たすため。
そしてもう一つ。
シエラとの約束と同じくらい、大切な理由がある。
それは、自分と母を捨て姿を消した父を探すこと。
これは、シエラと出会う前から抱いていた理由だった。
カイムは今、この村で母と二人で暮らしている。
カイムは此処で、母は人間父は魔族という家庭に生まれた。

