此処は危険だ。
それはこの地に居る誰もが心の底から分かっていた。
そんなこと、皆分かっていた。
なのに、その周知の事実を理由に此処から逃げろというカイム。
どうしても分からない。
彼の言葉がシエラには理解することが出来ない。
「何を言っているの?
危険だってことくらい、私だって分かって此処にいる.....分かっているからこそ此処にいるの!
例え此処で私が逃げたとしても、もうこの世界に安全な場所は無い。
此処に居ようと何処にいようと、この状況を打破しなれば何もならない。
そんなこと、カイムだって分かってるはず!
なのにどうして?
今のカイムは何かおかしいよ。
一体私の知らない間に、貴方の中で何があったっていうの?」
「..............」
シエラのまっすぐな言葉が静かな空間に響く。
真剣な眼差しのシエラ、見守るライル。陰湿な笑みを浮かべるロアル。
全てが飛び交うその中で、カイムは黙り込み何処か苦しそうに唇を噛んだ。
「.............これは、俺のけじめなんだよ。
シエラが過去との、自分とのけじめを付けたように。
俺もつけなきゃならないんだ、自分に対してのけじめを」
唇を噛み締める。
じんわりと血が滲み出て鉄臭い味がする。
カイムは数秒の間を無言で自分の中のものと戦うように拳を握り締め、覚悟を決めたようでゆっくりと口を開いた。
けじめ。
その言葉を口にしてカイムはスッと視線を今まで睨みつけるように見つめていたロアルから、シエラとその隣のライルへと向け直した。
紅い瞳が再びシエラとライルを捉える。
その瞳に帯びる紅は何故か先程よりもずっと哀しく見えた。
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