―――カイム。
私が知らないその間に、貴方の中で何があったの?
シエラは彼の姿に心の中で問い掛けてみるが、当然の如く返ってくる言葉は無かった。
「...........」
数秒間、続く沈黙。
周りの音が遮られたこの空間の中では、その沈黙はより静かに感じられた。
ッ。
その沈黙に、ロアルは一人口元を吊り上げる。
「ハハ.....ハハハハッ!」
そして何が面白いのか、今度は声を上げて笑い出した。
沈黙の中にロアルの笑う声が突き抜ける。
その笑いの反動で腕の中でぐったりとするカイムの身体も揺れた。
その奇怪な笑いに、シエラもライルも警戒する。
何が可笑しくて笑っているのか、その理解の出来ない笑いの理由が分からないことがもどかしくて不気味さを増させた。
「世界の終わりを前にこのような最高の演出を残してくれるとは.......さすがは私の倅(せがれ)だ」
ロアルが聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。
さらりと呟かれた、シエラのまだ知らない重大な事実。
その声はシエラ達の耳に届いたのか?
だがそれを確認するその前にロアルが行動を起こす。
――――ドサッ。
ロアルが、腕に抱いたカイムの身体を地へ下ろした。
この状況、本来ならばロアルの腕の中のカイムは格好の人質。
彼がロアルに囚われているその限り、シエラ達は迂闊に攻撃出来ない。
その大切な戦いの鍵とも言えるその存在を、ロアルが自らの意志で手放した。
それも笑みを浮かべながら。
その行動は、シエラ達にとってあまりに予想外だった。
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