mirage of story










そう。
出来ることならば今すぐにこの剣で、この男の喉を切り裂いてやりたい。


でもシエラもライルも、憎しみに震える身体を押し込める。














「ライル、お前も薄情な奴だ。
そのような娘一人のために、あっさり自らが忠誠を誓った主君を裏切るとはな。

......まぁ、いい。
お前はどっちにしろ、我が悲願を為すための捨て駒だった」



二人の昂ぶる感情。
それを知ってか、ロアルは黒い髪を揺らし笑いながら言う。








「..............でも残念だったな、ライルよ。

お前があれだけ求め焦がれ想い続けたルシアス姫様は、もうお前に心は向いていないようだ。

ルシアス姫はすっかり人間の小娘に成り果て、お前ではなくあのカイムという少年に心奪われてるご様子。
女心というのは、実に変わりやすいものよな」



「...........黙れ」





ロアルは一層に二人の心を掻き乱して笑う。

この状況を楽しむように。
二人を、そして全てをまるで玩具の如く弄ぶように。



シエラやライルにとっては倒すべき敵と対峙する一大事。
だがそうであっても、ロアルにとっては自らが用意した世界の終焉の舞台のほんの一幕。


彼は物語を創り上げる脚本家でもあり、またその創り上げた物語を心から楽しむ観客でもあった。

シエラもライルも、この戦場で命を懸けて戦う兵士達も、そしてこの戦場の何処かに居るはずであろうカイムも―――ロアルにとっては物語を進めるためのただの駒に過ぎないというわけらしい。



笑うロアルの姿にそれを感じ取り、二人は怒りを深めた。







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