「実にお久しいお姿だ、ルシアス姫様。
.........おっと、失礼。
今の貴方はもう姫様でもルシアス様でもありませんでしたな」
現れたその人―――ロアルはそう言いハハッとわざとらしく笑った。
大嫌いなその人。
それに加えての嫌みの込められた口調が、より嫌悪感を増幅させる。
「カイムは......彼は何処?
此処に居るっていうのは分かってる、素直に彼の居場所を教えなさい。
言わなければ―――無理矢理吐かせる」
背中合わせだったシエラとライルは、同時にロアルの元へ向き直す。
音が掻き消された静かな空間に三つの影。
対峙した因縁の敵に、至極低い声でシエラは問い詰めた。
「.............意外だな。
すぐにこちらに斬り掛かって来るとばかり思っていたのだが」
出来ることならば、シエラは今すぐにでもロアルに斬り掛かってその息の根を止めてやりたかった。
ロアルはシエラにとってエルザの仇。
そもそも運命を狂わせたまさにその元凶。
世界の中でこれほどまでに憎い存在は他に無い。
「ロアル様.......貴方は最初から俺を利用する気だったのですね。
貴方は俺のルシアスへの想いを利用した。
ルシアスを―――シエラとなった彼女を殺させようとした。
善人の顔をして、全てはルシアスのため全ては魔族のためと偽って!」
ロアルを憎むのは、シエラだけではない。
ライルもまた運命を狂わされ、沢山のものを犠牲にしてきた。
同じ目的を持つ信頼出来る主君であると信じていたのに、ロアルは最初から彼を利用する気しか無かった。
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