「気を付けた方がいい。
相手の罠かもしれない。
いつどこから狙われているか分からないからな」
「えぇ」
開けた空間に他の兵達の姿は無く、シエラとライルだけ。
それが一層に緊張感を高めさせる。
二人は互いに背中を合わせた。
そして何処からの攻撃にも対応出来るよう、辺りに細心の警戒を払いながらゆっくりと開けた空間の中を進む。
――――.......。
暫く様子を伺うようにゆっくりと空間を移動する二人は、ふと周りからすっかり音が消え失せていることに気が付く。
ついさっきまで聞こえていた轟音も地響きのような低い音も、剣の音も人の声もみんな聞こえなくなっていた。
辺りには、戦場に見合わぬ静けさが漂う。
「.............ついに此処まで来おったな」
静けさ溢れる空間に、響く声。
それはシエラのものでもライルのものでもない。
「..........ロアルッ!」
聞き覚えがあった。
それも二人ともの記憶の中に、鮮明に。
声を重ねて呼ぶ名。
その声には闇に酷似した暗い感情が込められる。
ブワッ―――。
呼ばれるその名。
その声に答えるように次の瞬間、闇の開けたこの空間に突如として現れるその名を持つ人の影。
漆黒の髪と瞳。
闇を纏う醜悪なその人。
今この世界の中での全人類の最大の敵、まさにその人。
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