〜2〜






人は誰しも"記憶"というものを持っている生き物だ。

嬉しい記憶。悲しい記憶。
総てが幾重にも積み重ねられて、人は育っていく。




誰しもが持つ記憶。

だがシエラには幼い頃の記憶がなかった。
正確に言えば、五年前以前の記憶がないのだ。






五年前のある日。
シエラはこの村の近くにある森の中で倒れているところを保護された。

保護されたというより助けられたという方が合っているかもしれない。
助けられたその時、彼女は傷だらけで生きている不思議なくらい酷い状況だった。






そんなシエラを森の近くにある村の人々が見付けた。


理由は分からないが酷い怪我を負い、倒れる少女。
服は血に汚れ、元は白だったであろう彼女の服を赤く染めていた。

その姿はあまりに痛々しく、目を伏せたくなる。





誰もがもう助からないだろうと思ったという。






血に染まった服はボロボロに引き裂かれ、まるで布切れのよう。
呼吸だって虫の息みたいに弱々しくて、微かに髪の毛を揺らす程度。

助かる見込みが見いだせない状況で実際、生きているのかも分からない状態だったから。






もう、助からない。
諦めの色が、濃くその場を支配していた。


だがそんな絶望的な状況で、皆が諦め行く中で諦めなかった者が。

それは、まだ若い一人の女。







"まだ助かるわ"
誰もが少女の生を諦める中で、彼女は一人言い続けた。



そして彼女は、皆が無駄だと反対する中で傷付いた少女を家に連れて帰り、少女が目を覚ますことを信じ看病した。

苦しそうに呻く少女の手を握り、子を慈しむ母のような愛情で看病し続けた。
少女が目を覚ますことを、ひたすらに神に祈った。







そして数日後。
祈りが通じたのだろう。
傷ついた少女、シエラは目を覚ましたのだ。



目を覚まし、彼女は周りをぐるりと見回す。

見回す先にあるのは、女の住む何の変哲のない民家。
周りに広がる見知らぬ場所に、シエラは呆然とした顔で静かに口を開く。