「大丈夫.....ごめんなさい。
もう、平気だから」
だが彼女には、それが出来ない。
このままで居たいという衝動より、それを止める自制心の方が大きくて。
彼女の中に在る二つの対なる存在の想いが激しくぶつかり合う。
ライルを愛しく想うルシアスである彼女と、ライルに憎む今まで生きてきたシエラである彼女。
記憶は戻った。
ライルとのことへのけじめも付けることが出来た。
だけれど過ぎた時間は戻せるわけではなくて、全てを過去の通りに戻せるわけはない。
彼女もライルも、昔と同じ彼等という存在ではあっても昔の彼等とは違う。
擦れ違い続けた時の中で、共に歩んでいたはずの彼等の歩みは少しずつ外れて違う方向を向いていった。
―――ッ。
身体を押し退けるように自分から離れる彼女に、ライルは複雑そうに瞳の奥を揺らがせた。
だけれどライルはその彼女の気持ちを知っているから、それを止めることも怒ることも出来ない。
ただただ、哀しくて。
彼女のその苦しむ姿を、見守ることしか出来ない。
ライルは彼女の気持ちを察したからこそ、彼女が自分を本当に受け入れられる時が来るまでは、敢えて距離を置くと決めたのだ。
「いや、構わないよ。
ただまだお前には―――君には無理はさせられない。
今は休んで、何が起きているのかをじっくり見極めてそれから何をすべきか考えよう」
ライルは離れた彼女に、柔らかく笑い言った。
.

