「貴方は何のために旅しているんですか?
何が、そこまで駆り立てるのか......この今の世界にたった一人身を投げだすなんて、余程の勇気と理由が要る。
俺は、その理由を知りたい。
それを知らなければ、貴方に剣を教えることは出来ない」
二人は暫く沈黙した。
擦れ違うことは幾度もあったが、彼女とこうして言葉を交わすのは初めてだった。
初対面と言っても間違いでない二人の間に流れる沈黙は、いやに長く感じられた。
「............大切な人の仇のために。
平和のために、そして本当のことを―――真実をこの身で知り向き合うために」
沈黙の後に重々しく口を開いたのは彼女。
「仇?」
「そう、仇。
私の大切な人は、私の母さんは魔族に殺された........無慈悲に残酷に。
母さんは、私のために死んだの。
私に母さんを守るだけの力が無かった、無力すぎたばっかりに―――私のせいなの」
水色の瞳には今にも流れ落ちそうな程の涙。
――――。
少女の瞳から今まで堪えていた涙が、一気に流れる。
涙は次から次へと流れ落ち、頬を伝う。
(.....この子は誰かが傷付くことなんて望んじゃいない)
目の前の少女からは、ただ大切な人の仇を討つ。
逆に言ってしまえば、仇のために誰かを傷付けることになる。
だが誰が傷付くことを、誰かを傷付けること自体を望んではいない。
彼女は終わらせたいのだ、この哀しい時代を。
カイムはそう確信した。
そんな強い心を持った彼女の涙。
その涙に、強さの中にある弱さを見た気がした。
.

