「何だ、あれは―――」
その目に黒い影を映した者は皆、口を揃えて言う。
何だ。
何なんだ、あれは。
それは遠くではなくその瞳にはっきりと見えているはずなのに、それが何であるか誰も口に出来ない。
何故か?
それは黒いそれを、今まで誰も見たことが無かったから。
........それは彼等の中では、存在しないはずの架空の存在だったから。
「...........漆黒の.....竜だ」
ようやく把握出来て最初の一人が言葉を零す。
竜。
その架空の存在が、今自分達の目の前の空に居る。
暗雲の中。
濃い闇をその身体に纏わり付かせて。
「見ろよ......竜だ、竜だ!
黒い竜―――創黒の竜だ!
しかもその上に誰かが、人が乗ってるぞっ!」
興奮した声。
ざわめく戦場。
そしてその黒の存在を指差す人は、有り得ない光景に気が付いて声を上げる。
「あれは――――」
竜の存在ですら、彼等には信じ難いこの現実。
だがそれに拍車を掛けるように、彼等の見つめる光景の先には―――竜の上に佇む一人の人の姿。
竜と同じ、漆黒を纏った人の姿。
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