「俺が剣を、貴方?」
思わず動揺した。
実を言えばカイムという少年はこの世界の中でも通じるような剣の才を持っていた。
かと言って実際に幾千の者と戦ったなどという実績も何も無い、才能を持て余すような環境に彼は居たのだけれど。
だが剣の腕は確かだった。
剣を教わるのなら彼から習うのが一番だ、そう村人に聞いて彼女はやってきたのかもしれない。
きっと彼には人に剣を教えるだけの力量はある。
だがそうだとして、カイムは少女に剣を教えるということにあまり賛成ではなかった。
寧ろ教えたくはない、彼女の頼みに正直そう思った。
――――。
自分と同じくらいの歳の彼女が、剣を覚える必要など果たしてあるのか?
湧き上がるのはそんな疑問。
剣を覚えることで、確かに強くはなれる。
この世界、身を守るためにもその力は必要なのかもしれない。
この世界を一人で行く彼女にすれば、尚更のことに。
.......。
剣を学べば彼女が望むように大切なものだって、守れるようになるかもしれない。
だが彼は危惧する。
剣は大切なものを守る盾でもあると同時に人を傷付けるための武器でもある。
もし、この少女が人を傷付けるために剣を学びたいというのならこの世界でまた傷付く人が増える。
到底彼女がそのような輩には見えなかったが、人はそう簡単に判らない。
傷付けたいという歪んだ意思があるのなら、絶対に教えるわけにはいかないのだ。
剣が人を貫くその度に世界はまた確実に荒む。
彼女の心だって荒み、傷付くことになるだろう。
誰かを傷付けることではら何も得られない。
そのことを彼は知っていて、だから尚更気が進まなかった。
(誰かが傷付くところなんて、見たくない)
彼は心からそう思うことの出来る、優しい人だったから。
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