居ない。
その予想もしなかった言葉に、居ないライルの代わりに答える兵は説明を付け加えて改めて此処に隊長は居ない旨をキトラに伝える。









「一人で.....前線に?」


「あぁ。

もう隊長が行かれて丸一日は経つ。
だが戦況にどのような変化があったのか......隊長の安否は我々にもまだ伝わっていないんだ」





その言葉からは不安が滲み出ていた。

指導者の居ない本陣。
言葉から滲み出る不安が、ヒシヒシと空間全体に染み渡る。



大勢すぎる兵士達の中、たった一人......たった一人暗く重い何かを背負い戦場に立つあの若き哀しい青が無いだけで、空間が大きな欠落感に苛まれる。

いかに彼の存在が大きかったのかを、この空間に居る誰もが改めて思い知る。
だが思い知ったところでやはり、求める姿はない。















「たった一人で.......最前線の敵軍の中に。

いくら戦況を変えたかったからって、無茶すぎるよ。
たった、一人でなんて」




想像し頭の中に思い浮かんでしまうのは、最悪の絵図。




単身、激しい戦場の最前線へ向かったライル。



最前線は敵の陣内。
攻め込み戦いを続ける味方は居れども、敵の圧倒的な数の前には適わない。

切り込む。斬り込む。敵を斬り伏せるライル。
だけれど敵は次々と湧いてはライルに襲い掛かる。


彼は強い。
自分達の中でも群を抜いて圧倒的に強い。

だけれど、彼も人であることに変わりはない。
どれだけ彼が強くとも、数には適わないだろう。






隊長の、ライルの安否がこの本陣に伝わらない。

それはその安否さえこちらに伝えられる者が、つまりは味方がもう居ないということを示しているように思えてならない。
伝わらぬ彼の安否が、本陣に最前線での味方の全滅という不穏な可能性を色濃く映し出していた。







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