(こんな戦いがあるのも、全部人間達が悪いんだ。
人間さえ居なければ、こんな戦いだってない。こんなに沢山の人が死ぬことだってない。
........兄貴だって、逃亡者なんてものになって追われることもなかったのに)
戦いなんて、大嫌いだ。
キトラは戦いで、あの五年前の大きな戦乱で家族や大切な人を失った。
何もかもを失って絶望していたそんな彼に、唯一差し込んだ希望の光。
それは幼い無力な自分に優しく手を差し伸べてくれた兄貴の、ジェイドの存在。
......だが、そのジェイドは今や魔族から追われる身。
事情は何かあれど、自分から離れ人間の側に付いてしまった。
一度は絶望した自分に残った大切なその存在すらも、戦いは奪っていった。
全ては憎き人間との、戦いによって。
(―――早く終わらせなきゃ。
こんな戦い、早く。
全部失ってしまう、全部戦いに人間に奪われてしまう前に)
そのためにはまず、今は隊長にこれから先の行動を乞わねば。
きっとこの戦いに賭ける皆の想いは一つで、そしてその中でも隊長の―――ライルの想いは一番強い。
その強い想いを加速させて行けば、勝機は必ずこちらに傾くとキトラを始め多くの兵がそう信じていた。
「隊長!」
走ることに集中し静寂な戦場を駆け抜けること、およそ数刻。
視線の先に本陣らしき人集りが見え、キトラが叫ぶ。
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