若干、視線に言わされた感があるが仕方がない。

口に出して言ってしまった以上は、行くしかないだろう。
キトラは気を改めて、送られる視線に背を向けて走り出した。






















(........飛ばしていけば、十分くらいかな)




向かうは本陣。
そこに行けば、この戦で自分達を―――つまり魔族を指揮するライルが居るはずだ。

ライルの元へ行って、戦況の是非を問おう。
きっと本陣ならいち早く、この戦場の状況の最前線を把握しているはずだ。



キトラは本陣へと、その足で急いだ。












タッタッタッタッ。

大地を蹴る。
一歩ごとに砂埃が舞い上がっては空気を濁す。



一歩。また一歩。
走り去る視線の端に広がる光景は、静寂とは言えどやはり戦場だ。

所々に転がるのは、もう動かなくなってしまった人の死骸。
そして広がるのは、大地に染み渡る鉄臭い赤い染み。じんわりと鼻を突くような異臭。


敵は居ない。
だが、此処はやはり未だ戦場の真っ只中であることに変わりはなかった。











「..........」



キトラはそれらの光景から出来るだけ目を背け、走ることだけに専念する。


キトラはまだ年端が行かないとは言えど、軍門を下った一介の軍人。

戦いでは人が死ぬものだというのは理解しているし、敵であるならば相手を殺すという心得もある。
だが実際、戦いにも人の死にも慣れることはなく好きではなかった。










.