mirage of story











言葉。
言葉、最後の言葉。

それを思い出そうと思考を巡らせると、脳裏にあの時の光景が蘇る。






真剣で深刻なシエラの表情。
静かな静寂の部屋。

その部屋の中、集まった俺とジェイドさん。
そしてロキさんとジスさん。



窓に歩み寄るシエラ。
そして彼女が、この世界にはもう存在しないとも思われていた美しき蒼の名を呼び、窓の外その声に現れる竜。水竜。








ボロボロの廃城の一室。
開け放たれた窓からか流れる風で、少し部屋の中は寒かった。

でもあの時寒いと感じたのは、あの部屋の空気ではなくてあの部屋の中に満ちていた空間のせいだったのかもしれない。



"一人で行く"というシエラの言葉に、俺は彼女が自分から離れていくのを感じた。
ずっと傍にあった温かい存在がスッと遠退いていく、その感覚がきっと俺には寒かったのだろう。








待ってくれ。
一人で行くなんて言うな。
俺は貴方が誰だと知っても、俺の大切な人である貴方を見放しはしないから。
守っていくから。


だから、一人なんて寂しいことを言わないで欲しい。
俺を共に連れて行ってほしい。




あの時俺はそう言いたくて、でも言えなかった。

シエラが俺に全てを話してくれた時、俺は彼女にこれからの選択を全て任せると決めた。
だから彼女が一生懸命搾り出したであろう一人で行くという決断を、俺の勝手な気持ちで揺さぶってはいけないと思ったから、彼女に言うことが出来なかった。



俺が何も言うことが出来ない時間が続く。
でもそれでも彼女とこのまま別れてしまうことに耐えられなかった俺は、窓の外の水竜を見つめたままの彼女に何か言葉を掛けようと一歩前に踏み出そうとした。











『........私、いってきます』



だが俺が踏み出す決意をしたのは、シエラのその言葉よりも遅かった。


声が聞こえた。
そう思うと同時に、俺の視界には彼女の笑顔。

そして次の瞬間にはもう、彼女の姿はそこには居なかった。








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