俺の知らないシエラ。
俺の知らない、ルシアスとして生きていた頃の彼女。
その俺の知らない彼女をジェイドさんは知っている。
そして彼女が同一の者であるとは知らねど、あのライルという魔族も知っている。
そう。
知らないのは自分だけだった。
過去を、記憶を失ったままの彼女だったなら俺の知っている彼女だけのまま、ずっと一緒に居られたかもしれない。
だけれど、彼女は全てを思い出してしまった。
俺の知っている彼女だけでは無くなってしまった。
シエラは取り戻した過去に、過去の彼女にとっての大切な者を見つけてしまった。
そして彼女が突きつけられた真実と取り戻した俺の知らない彼女の過去を前に悩む。
そんな彼女に俺は何も言ってやることは、力になってあげることが出来なかった。
そう、俺が彼女のことをあまりに知らなすぎたから。
(もっと、シエラの力になれる存在で在りたかった。
困った時、悩んだ時に頼れる存在で在りたかった。
........シエラの、彼女の全てを知っていて全てを受け入れられていたなら。
今、彼女は一人で死の危険に満ちる戦場に居ることは、無かったかもしれないのに)
満ちるのは後悔の念。
もし俺と同じこの立場に、シエラの今も過去も知り得るジェイドさん―――そしてあのライルが居たのなら。
もっと彼女のための、いい結果になっていたのだろうか。
後悔など、無意味だと分かってはいた。
でも悔しい。情けない。
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