mirage of story












「今までは復讐なんてものの前に霞んで見えなかったのかもしれない。

だがな、アイツも馬鹿じゃないはずだ。
此処でアイツが嬢ちゃんの言うけじめって奴に気が付くことが出来なきゃ、本当に大切な者を失っちまう。それも自分の手によって。

........いくら何でも気付くはずさ。
気が付かなきゃ、アイツの姫さんに対する想いが全部無になっちまう」





ジェイドの紅い瞳の中に思い出されるのは、幼い日の自分。
そして共に遊び駆け回ったライルと、今はシエラとなったルシアスの姿。


そして追い掛けるように流れる記憶の中で、居なくなった彼女と決めつけられた彼女の死。

そして突きつけられた現実を前に復讐に溺れていった自分とライルの姿。













「―――気が付いてもらわねぇと困るんだよ。

じゃねぇとアイツも、そして俺もお前も永遠に大切なものを失っちまう」





水面の先に呟く言葉は、ただの言葉じゃなくジェイドの願望。願い。


自分が願ったところで何も変わりはしない。
カイムが彼女を心配するのと同じように、何も変わりはしない。

だけれど、願わずには居られないその願い。
表情も声色も変えず自分の中に抑えようとしていたつもりのジェイドだったけれど、その想いは彼自身から沸々と滲み出していた。




















「...........そうですね。
ジェイドさんの言う通りです。
心配ばかりするのは、もう止めにします。

きっと、シエラは―――彼女なら大丈夫ですね」





真剣さと懐古が垣間見るジェイドの姿。
その後ろ姿をカイムは見つめ、フッとその視線をジェイド越しの水面へと移す。





心配ばかりしていても仕方がない。
心配しているのは自分だけじゃなく、ジェイドも同じ。



その心配を全部表に出していたらキリがない。前にも進めない。
今はそれを押し殺して、前に進まなければいけない時なのだ。

カイムはジェイドの後ろ姿にそんなことを悟り、グッと不安と心配する気持ちを押し込めた。








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